日本銀行のマイナス金利解除の背景
2016年、日本銀行は「デフレ脱却をより確実にするため」マイナス金利政策を始めました。
日本は1997年以降、長く物価上昇率(インフレ率)が低迷し、それを原因とする経済成長の鈍化、いわゆる、物価下落(デフレーション)に悩んでいました。長期にわたる「デフレ経済」です。
それを背景にデフレ脱却のため、大規模金融緩和を掲げ、2013年4月、「2年でインフレ率2%を達成してデフレ脱却を目指す」という「異次元の金融緩和」が開始されました。
ところが、消費税増税の影響もありデフレ脱却を2年で達成することはできず、日銀はさらに金融緩和政策を追加継続します。
この1つがマイナス金利政策でした。金融機関が日本銀行に開設している当座預金口座の一部にマイナス0.1%の金利をつけることで、銀行が資金の貸し出しや投資に回さず積み上げておくと損をする環境をつくり、金融機関が世の中にお金を送り出すように仕向けるようになりました。
マイナス金利の導入後、企業への貸し出し金利や住宅ローンの金利が下がったため、一定の効果はあったといえますが、2024年3月、「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」との理由により、マイナス金利解除となりました。
マイナス金利解除となった事で、マイナス面として特に注目されていることが、住宅ローンの金利上昇です。
具体的に住宅ローンの金利にはどのように影響して、今後どのような事が考えられるのか、
みていきましょう。
住宅ローンの金利タイプには、固定金利と変動金利がある
住宅ローンの金利タイプには、大きく分けると「固定金利」と「変動金利」があります。
固定金利は、返済期間中の金利が固定されていて変わりません。長期の固定金利型のの金利は、長期金利を指標とし、「10年物国債金利」を基準とします。
固定金利の中でも、返済期間中ずっと金利が固定されている「全期間固定型」と、金利が固定される期間が2年、3年、5年、10年などと決まっている「固定金利期間選択型」があります。
固定金利期間選択型では、金利の固定期間を10年とした場合、この10年が終わったら以後の金利を変動金利にするか、その時点の金利水準で再計算された固定金利にするかを選択することができます。
一方、変動金利は、半年ごとに金利が見直されます。変動金利は、日銀の政策金利(短期金利)の影響を受け、1年未満に優良企業に対して資金を貸し出す際に適用する「短期プライムレート」を基準にしています。
多くの金融機関は、短期プライムレートに1%上乗せした金利を基準金利としており、その基準金利から引き下げ幅を差し引いて、実際に借りるときの借入金利が決まるしくみになっています。
また固定金利と変動金利では、変動金利よりも固定金利のほうが金利は高くなっています。
住宅金融支援機構が実施した「住宅ローン利用者の実態調査(2023年10月調査)」によると、変動型74.5%、固定期間選択型18.3%、全期間固定型7.2%となっており、住宅ローンを借りている人の7割程度が変動金利を選んでいます。
変動金利はしばらく低金利が続くと見込まれている
マイナス金利が解除された際の記者会見で日銀の植田和男総裁は「当面は緩和的な金融環境を継続する」と述べています。
この発言により、しばらくは日銀が低金利を継続するとみられています。
当面の間は、急激に変動金利の金利は上がらないと考えられますが、
経済状況によっては金利の動向がどうなるのかはわかりません。
そこで、金利が上昇してもあわてないために変動金利の仕組みについて知っておくことが大切です。
変動金利の金利は固定金利よりも後に上がる
金利が上がるときには固定金利が先に上がる特徴があり、変動金利が上がったときには固定金利はすでに上がってしまった後になります。
変動金利で借りておいて、変動金利が本格的に上がってきたら固定金利に変えればいいと考える人にとっては注意が必要です。
5年ルールがある
5年ルールとは、変動金利は、半年ごとに金利が見直しされますが、
月々やボーナスの返済額は5年間変わらないようにするというルールです。
返済額は変えないといっても金利の変動は反映されているので、月々の返済額の元金と利息の配分を調整して、月々の返済額を変えないようにしていることになります。
金利上昇の際は、元金の返済に充てられる割合が減り、利息を支払う割合が増えるので、元金の減りが遅くなるという状況になります。
125%ルールがある
「125%ルール」とは、
変動金利では、金利が上昇したとしても、月々の返済額は、前回の返済額の125%(1.25倍)までしか増えないという「125%ルール」もあります。
毎月の返済額が1.25倍を上限に増えないとしても利息として増えた分の返済は翌月の返済に繰り延べされます。元利均等返済では利息の支払いが優先されますので、元金の返済が翌月に持ち越されるということです。
将来金利が上昇を続けた場合は、元金の返済が先延ばしにされる分、支払い利息が増えることになります。最悪のケースでは、最終返済日に返済し切れていない元利金が残った場合、一括返済を迫られることとなってしまいます。
変動金利のリスク対策
(1)金利上昇後の返済額を把握する
今後金利が上昇した場合に毎月の返済額と総返済額がどれくらい増えるのか、事前にシミュレーションをしておくことが大事でしょう。
事前にどれくらい返済額が増えるのかを把握することによって、対策を練ることができます。
(2)繰り上げ返済をして早めに完済する
金利上昇への対策として有効なのは、「繰り上げ返済」です。繰上げ返済は、どんなに金利が上昇しようと、繰り上げ返済をした金額は全額元金の返済に充当されます。
繰り上げ返済には、ローンの期間を短縮する「期間短縮型」と毎月の返済額を減らす「返済額軽減型」があります。
期間短縮型は、返済期間が短縮される効果もあり、同じ金額を繰り上げ返済するのであれば、期間短縮型の方がお得です。
ただし、金利が上昇してきて、月々の返済額が増えた時には、月々の返済額の負担を減らしたいと思う方もいるでしょう。そのような場合には、返済額軽減型を選択しましょう。
(3)金利上昇に備えて貯蓄をする
繰り上げ返済をするためには、貯蓄が必要です。もしもの時に繰り上げ返済ができるように、当初の金利水準が低いという変動金利のメリットを活かして、繰り上げ返済資金を積み立てしておくと良いでしょう。
(4)借入金額は少なくする
借入金額が大きいほど、金利上昇による総返済額は増加します。住宅ローンを組む際に変動金利の上昇を考えておくなら、頭金を多めに入れて借入額を減らすか、多額のローンを組まずに、購入できる物件を選ぶようにすると良いでしょう。
長い返済期間の間には、予想もしないような金利上昇があるかもしれません。繰り上げ返済ができるように貯蓄をしておく、借入金額を少なくするなど、金利上昇の変化に対応できるように返済計画を考えながら、住宅ローンを借りることをおすすめします。
(5)自宅をリースバックする
リースバックとは、不動産会社や住宅販売会社などの「リースバック事業者」に自宅を売却したのち、その自宅に賃料を支払って住み続けることができるサービスです。
売却と同時に賃貸借契約を結ぶことになります。
リースバックは、これまで住み替えや相続対策などの目的で多く利用されてきました。住み替え資金を先に確保してから実際に住み替える家をゆっくり探せる、相続の面倒を避けるために自宅を換金したうえで、住み慣れた家で暮らし続けられるといった利便性があるためです。
リースバックは、金利上昇による返済額増加のリスクから逃れる手段としても活用することができます。
自宅を売却して住宅ローンを一括返済してしまえば、金利上昇の不安から逃れることができ、そのうえで、家賃を支払って、引っ越しをせずに住み慣れた家で生活を続けることができます。
一つの選択肢として、考えておくのも良いでしょう。
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